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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(あ)1808号 決定

本店所在地

東京都台東区三筋二丁目二四番八号

株式会社 滝川商店

右代表者代表取締役

滝川

本籍

東京都台東区谷中三崎町二八番地

住居

右同区元浅草三丁目二番一号

会社役員

滝川

明治四二年二月二五日生

右株式会社滝川商店に対する法人税法違反、滝川に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、昭和四一年六月八日東京高等裁判所の言い渡した判決に対し、被告株式会社滝川商店(代表者滝川)および被告人滝川から各上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人満尾叶、同小関淑子の上告趣意第一点は、憲法二九条違反、同第二点および同第五点は、憲法三九条違反をいうが、いずれも原審で主張も判断もなかつた事項に関する違憲の主張であり、同第三点は、憲法三一条違反をいうが、実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第四点は、憲法三六条違反をいうが、実質は、量刑不当の主張であつて、すべて刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

上告趣意書

○昭和四一年(あ)第一八〇八号

被告人 株式会社 滝川商店

右代表者 滝川

同 滝川

弁護人満尾叶、同小関淑子の上告趣意(昭和四一年九月二二日付)

第一点 原判決には憲法第二十九条違反があるので破棄さるべきである。

即ち、被告会社は、昭和三十四年七月一日から同三十五年六月三十日迄の営業年度に於て浜松市の滝川理容器具店に対する売掛金を貸倒れとして債権償却引当損の計上をなし、又昭和三十五年七月一日から同三十六年六月三十日迄の営業年度に於て、同じく浜松市の滝川理容器具店に対する売掛金につき債権放棄の手続をとつたうえ右売掛金を損金として計上したところ、第一審判決はこれを法人税逋脱を目的とするものであると判断した。しかし実質上は既に回収不能である滝川理容器具店に対する売掛金について税法上みとめられる損金性を具備させるべく強制執行又は破産申立等の法的手段に訴えるということは被告会社にとつては被告人の実兄を路頭に迷わせることを意味するのである。そのような非人道的な法的手続をとらない限り実質上回収不能な債権であつても損金として計上することを許さないというのは被告人が実兄に対する債権をやむを得ず放棄することを間接に禁ずることになり理由なく財産権の行使を制限する結果となる。このように明白な憲法二九条違反の判断は原審に於て職権によつて調査され、是正さるべきであるに拘らず原判決がこれを看過して第一審判決を依持したのは憲法第二九条に違反するものである。

第二点 原判決には憲法第三十九条違反があるので破棄さるべきである。

即ち第一点記載の滝川理容器具店に対する売掛金昭和三十四年度分三、九二八、八四九円と昭和三十五年度分三、九二八、八四九円は同一の債権である。被告会社は昭和三十五年六月の決算期にこれを損金として計上したところ所轄税務署に於て損金性を否認されたためこれを損金から控除した額によつて納税し、次年度所轄税務署の指導に従いあらためて債権放棄の手続を経て損金として計上したものなのである。つまり被告会社が滝川理容器具店に対する債権を損金として計上したのは二回計七、八五七、六九八円ということになるけれど所得を逋脱したのは一回三、九二八、八四九円であるのに拘らず第一審判決は同一の債権を二つの年度にわたり重複して計七、八五七、六九八円を逋脱所得として算入した。これは同一の犯罪について二度刑事上の責任を問う結果となるから原判決は職権で調査し破棄すべきであつた。この点を看過した原判決は憲法第三十九条に違反するものである。

第三点 原判決には憲法第三十一条違反があるから破棄さるべきである。

即ち、昭和三十四年七月一日から同三十五年六月三十日迄の営業年度に於て被告会社が及川商店に対する貸付金を貸倒れ処理したことを原判決は逋脱の犯意をもつて所得の減少を計つたものとするのであるが、右貸付金は原判決もみとめるとおり実体のないものであり、被告会社としてはあやまつて計上されていた実体のない資産を簡易な方法で訂正したにすぎず不正手段による脱税を意図したことはないのである。もともと資産でないものを償却することは実質的には損金を増加させるものでも所得を減少させるものでもないから、及川商店に対する貸付金は逋脱所得に算入すべきではない。従つて被告会社がこの貸付金を貸倒れ処理したことは法人税法四十八条一項の構成要件を充足しないのでありこのような行為を処罰する法律は存在しないこの行為を処罰した原判決は法律によらず被告会社に刑罰を科したものであつて憲法第三十一条に違反している。

第四点 原判決は憲法第三十六条に違反するから破棄されなければならない。

即ち、被告会社の本件法人税逋脱は裏帳簿作成等の事実もなくその手口は単純であつて計画的犯行ではない。税法上の見地から損金性を否認され結果的に脱税とみなされるに至つた諸項目中には或いは老人に対する情誼から支出したもの(速水製作所関係)や長年馴じみの出入業者をみすてるにしのびずあえて抵当権実行をなしえなかつたもの(加藤製作所関係)、実兄が路頭に迷うのを見るに見かねて抵当権実行をなしえなかつたもの(浜松滝川商店関係)を損金処理によつて償却したものなのである。これらの情状を全く酌量することなく被告会社にとつてはまさに破産必至の巨額の罰金を科した第一審判決は残虐刑を科したものとして原審に於て是正さるべきであつたに拘らず原審はこれをしなかつたため憲法第三六条に違反しているのである。

第五点 原判決には憲法第三十九条違反がある。

即ち原判決は江津給料及び松坂屋掛買口座支払金を被告人の裏賞与と認定しこれらの科目を被告人の所得逋脱額に加算して被告人を処罰したのであるがこれ等の科目はすでに被告会社の所得逋脱額に加算され被告会社に対する量刑の基礎となつている、被告会社は株式会社とはいうもののその実態は被告人の個人企業なのであつて被告会社の損失はそのまま被告人の損失なのであるから、一方に於て法人税法違反として罰金を科せられた科目が他方に於て所得税違反として再び罰金を科せられるということは被告人にとつては一個の行為を二重に処罰される結果となるのである、よつて原判決は憲法第三十九条に違反するものである。 以上

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